「姉は、噛みついてきた人間はもれなく言い負かしてきた気の強い女だ。ある意味、誰でも寛大に受け入れそうな祖父よりもだいぶ厄介な相手で、しかも会うのが俺の婚約者となれば見る目も厳しくなる。なにかしら試される可能性もある」
「え、じゃあ無理だよ。私、ナイフとフォークが何本も並ぶお店に連れていかれた時点で終わると思う。一般的なマナーしかわからないもん」
実家が旅館だから、仲居さんの真似をして襖の開け方だとか、そのへんの作法はなんとなくわかるにしても、もてなされる側の作法は皆無だ。
「一般的なマナーがわかれば問題ない。姉が試すとしたら性格だとか内側だ」
「もっと無理だよ。内側って、学歴とか生い立ちでしょ? 私、大学は中退してるし生い立ちだって……今話した通りだし。それに、二十四歳で正社員にもならないでバイトを掛け持ちしてる時点で、お姉さん的にはマイナスなイメージを持つと思う」
今の時代、大学を中退した私を正社員として迎え入れてくれる企業は早々ない。それでも一時期就活に参戦したものの無理だったため早々に諦め、とりあえず日々の生活のためにとバイト三昧でここまできている。
それはただ必死に生きてきた結果だとしても、その経歴を聞いたお姉さんがいい印象を持つわけがない。
私の希望条件に有沢はばっちり当てはまっても、有沢の条件に私は当てはまらない。
それがわかり、せっかくの提案だけれど無理だと断ろうとしたけれど、有沢が続ける方が先だった。



