「そういえば、例の件は進みそうなの?」
「ああ。証拠は相当集まったし問題ない。首を横に振るようなら、この証拠を使うまでだ」
「縦に振るに決まってる。スタッフを簡単に切り捨てるような人間なんでしょう? それどころか場所にも建物にも愛着なんてないんでしょ。それに、再建の要だった柚希ちゃんはもう自分のもとには戻らないともわかったでしょうしね」
どうすれば自然な寝起きを表現できるかと考えを巡らせていると、また私の名前が聞こえてくる。
再建という単語から推測すると、もしかしたら悠介と夏美さんは〝白川楼〟について話しているのだろうか。
でも、どうしてふたりがそんな話をしているのだろう。
「でも、まだ柚希ちゃんに言ってないのね。言いにくいにもわかるけど、こういう話はずるずる延ばしていると余計に言いにくくなるから早いうちがいいわよ」
「わかってる」
「柚希ちゃんなら大丈夫よ。わかってくれると思う。まぁ、その物わかりの良さを悠介は心配しているんでしょうけど。でも、柚希ちゃんはこれだけあからさまな態度とられていてよく悠介の気持ちに気付かないわよね。私なんて助手席に乗せてるところ見かけただけですぐにわかったのに」
「どんな子だか見せろって俺が折れるまで言い続けて、結局店までついてきたよな。いい迷惑だった」
悠介が呆れ顔をしているのが声だけでわかった。
そういえば、昔、〝speme〟に悠介が夏美さんを連れてきたことが一度だけあったと思い出す。



