契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける



「傷ついているところに付け入るような真似はしたくないだけだ。混乱させるだけだろ。それに、もっと俺の前でしっかり泣いたり落ち込んだりできるまで安心させてやるのが先決だ」

次に聞こえてきたのは悠介の声に思え、頭の霧が少し晴れる。

「まぁ、三年? 四年? よくわからないけど、ずっとだものね。今更焦らないってだけか。それだけ柚希ちゃんが大事なのね」

さっきのが悠介だとしたら、こっちは夏美さん?
そう考え、じょじょに気を失う前のことを思い出す。

今日はたしか、悠介が帰宅してすぐに夏美さんが訪ねてきたんだった。いいワインが手に入ったからと、ワインに合う料理も一緒に持ってきてくれて、一緒に食べたのを覚えている。

それで……そうだ。ワインがあまりに口当たりがよくて料理もすごく美味しかったから、ついつい飲み過ぎて気付いたら眠くなって、そこから記憶が飛んでいる。

ものすごく気持ちよく寝入ったことを思い出し、せっかく来てくれた夏美さんに失礼すぎる……!と起き上がろうとしたけれど、会話の中に私の名前が出てきていた気がしてうかつに動けない。

どうしよう。だからといってこのまま狸寝入りするのも、盗み聞きしているみたいで嫌だし……。

そろっと薄目で確認するとL字型のソファの短い部分に夏美さんが、そして長い部分の端っこに悠介が座り、私はその間に横になっている状態だった。

頭は悠介の方を向いているので、いつか悠介を撫でたときと逆の位置だ。

ふたりはアルコールに強いようで、私と同じかそれ以上飲んでいるはずなのに酔った様子を見せずに普通に会話を続けていた。