「誰でもいいって言い方はちょっと語弊があるよ。ちゃんと、人として尊敬したいし。あまり悠長なことを言っていられないのは事実としても、ちゃんと生活してて最低限のマナーだとか思いやりがある人がいいなとか、それなりに希望はある」

結婚や家庭を築くことに前向きで、お互いに優しい気持ちを持てたらそれでいい。
そもそも、憧れはあれど恋というものを経験してきていない私には、情熱だとかそういう燃え上がる感情がいまいちわからない。

それを一度くらい体験したかったというのが本音ではあるものの、生まれた瞬間から不倫がとても身近にあり、しかもその被害者側立場にいる私にとっては、誰かを愛するあまりひとつの家庭を平気で壊せる感情が若干怖くもあるのだ。

それに私は、誰を傷つけても構わないという勝手な愛の暴走の末、できた子どもだ。

血筋なんて関係ないとはいえ、万が一にも同じ激情型の愛を秘めている可能性もある。
だったら自制が効かなくなる危険性を含んだ恋心なんて胸の奥に眠らせたまま、暖かい親愛だけを持ち結婚生活を送った方が平和ってものだ。

それに正直、恋愛に感情や時間を割くだけの余裕がないのが一番の理由だった。
私の希望条件を聞いた有沢が「それ以外の条件は?」と聞いてくるので、少し考えた後首を横に振った。

「あとは、フィーリングっていうか、清潔感がなくて生理的に無理だとかじゃなければ別に……」
「じゃあ、俺と結婚すればいい」

私の声を遮った有沢の声に耳を疑う。
「え」と思わず漏れたものの、それ以上は言葉が続かず呆けている私に、有沢は至って真面目な顔で続けた。