「そういえば、雄二さん元気にしてる?」

雄二さんというのは、山岡雄二さんといって、三年前までバイトしていたイタリアンレストラン〝speme〟でキッチンリーダーを任せられていた男性だ。歳は私よりひと回り上の三十六歳。

もともとは〝白川楼〟の調理場にいたのだけれど、十年前、母が行ったリストラで仕事を奪われ、そこを有沢グループに拾われたらしい。

私が小学校に上がる前から〝白川楼〟の調理場で腕を磨いていた雄二さんなら当然だ。

ちなみに、雄二さんも私を気にかけ構ってくれた優しい大人のひとりで、不受理届を出しておいた方がいいと助言してくれたのも彼だった。

雄二さんとは今も連絡を取り合ってはいるけれど、実際会ったわけではない。
だから聞くと、有沢は眉間に寄せたシワを濃くするので首を傾げる。

だって、有沢だって雄二さんが大好きでとても慕っていたのに、この話題を嫌がる理由がわからない。
有沢が〝speme〟にかなりの頻度で顔を出していたのは、兄のように慕っていた雄二さんと話すためで、同じように雄二さん大好きな私とよく争っていたというのに……この不機嫌顔はどういう意味だろう。

「もしかして、喧嘩中?」

雄二さんだと、誰が相手でも喧嘩にはなりそうもないものの、他に理由が思いつかない。
けれど有沢は「違う」と首を横に振り、再び頬杖をつくとあれだけ見ようとしなかった窓の外に視線を向けた。

そして、しばらくそうした後「雄二さんなら元気だ」とボソッと言い、私と向き合い話題を戻す。

「つまり、結婚できれば誰でもいいんだな?」

真面目な顔で見られ、少し戸惑いながら口を開く。