「ずっと母親から冷たくされるどころか、存在自体を無視されているところすら見てきたからな。俺が白川楼で働き始めた頃には、柚希はもう母親からの処遇を当たり前の顔をして受け入れていたが……当時の柚希は六歳やそこらだった。そんな小さな子がそこまで割り切るまでには相当色々な感情を乗り越える必要があったはずなんだ」
柚希から聞き、知っていたはずだった事実なのに、年齢を聞き胸が痛む。
小学校に上がる頃か……と考え、昔の記憶がよみがえる。
入学式のために作ったスーツに身を包んだ俺を見た両親は、嬉しそうに目を細め、カメラや携帯と、ありとあらゆる機器で撮影し、後日写真館にまで行った。
俺が当たり前のようにそんな愛情を甘受していた頃、柚希は……と思うと、逃がせない居たたまれなさにグラスを持つ手に力がこもる。
「だから、今回の件を聞いてホッとしたんだ。ありがとう」
ポンと肩を叩かれる。
見ると雄二さんが人のいい笑顔を浮かべていて、くすぶっていた怒りを吐き出すために息をつき……今日のもうひとつの目的である話題を切り出すために口を開く。
「三年前、柚希が突然疾走した理由を、雄二さんは知っていたんですよね」
俺からこう聞かれると予想していたのか。雄二さんは驚いた様子も見せず、そして誤魔化そうともせずにうなずいた。



