だからこそ、私をどう扱おうが自由だと母親なら考えるし、うまくいかなければヒステリーを起こし、どうやってでも周りを従わせ思い通りにする。
だとしたら、家を出て県をまたいだところでなんの解決にもならない気がしてきたし、不受理届だってどこまで有効なのか日に日に自信がなくなってきた。
頼りの不受理届だって、不正をして取り下げる手続きをされてしまう可能性もないとは言い切れない。実際どんな事情があってどんな関係であろうと、戸籍上はあの人が私の母親なのだ。
だったら、もう結婚してしまえばいいんじゃないか。こんなに毎日びくびくして暮らすくらいなら、母親が動き出す前に私が先に結婚すればいい。
結婚は相手があるものだし、母親は世間体を気にする人だ。そう簡単には覆せないはず──。
「そう思って結婚相談所に行こうとしてたの。あ、有沢が考えているような悲惨な感じだけでじゃないよ。むしろ、ここに未来の結婚相手がいるのかもしれないって思ったらワクワクしてたくらいだし。小さい頃から、あったかい普通の家族に憧れてたから……真面目に結婚について考えてくれる人と出会いたいとも思った。この先の人生を、一緒に歩いてくれる人がいたらいいなって、心強いなって」
きっかけは母親の恐怖だったにしても、決してマイナスの気持ちだけに駆られあの階段を上ろうとしていたわけではない。
階段前で私の腕を掴んだときの有沢の顔を思い出し、そうフォローしたのだけれど、彼は安心するどころか不満げに顔をしかめた。
でも、なにを言うわけでもないので、不思議に思いながらも話題を変える。



