「いや、待てって言いながらおまえは待たないんかい!……って感じだね。堪え性のない男だなぁ。まぁ、高校生ならがっつくのも仕方ないか」

ひとりきりだと思っていた休憩室に突如声が聞こえ肩が跳ねる。
振り返ると、蘭が私の後ろから携帯を覗き込んでいた。

「びっくりした……」
「ごめんごめん。夢中になってるから、何見てるんだろうって気になって。その漫画、そんなに面白そうだった? 十代向けの雑誌に掲載されてるやつでしょ」

私の隣の椅子を引いた蘭が聞く。
バイト先のレストランの休憩室は十畳ちょっとで、そこに長方形のテーブルと囲むようにパイプ椅子が置いてある。他にあるのは冷蔵庫と、オーナーが使うパソコン台のみ。

電子レンジはないけれど、賄いが出るので問題ない。

「十代向け……そうなんだ。すごいね」
「なにが?」
「だって、キスとかしてたし、予告カットではそれ以上もしてそうだったし」

最後の方はもごもごしながら言うと、蘭は「初体験の平均年齢って二十歳前後だし普通じゃない?」と平然と答えてから私をまじまじと見て……そしてわざとらしい微笑みを浮かべた。

机に頬杖をつきこちらを見る蘭の目には確信が浮かんでいて首をひねる。

「なに?」
「柚希って、今まで恋愛系の話題興味ゼロだったじゃん。私がどれだけドラマだの芸能人のスキャンダルだのを嬉々として話しても、〝そうなんだ〟って言うだけで本当にまったく靡かなくてさ。でも生い立ちとか複雑だし生活で手一杯なのかなって思ってたんだけど」

そこで一度切った蘭が口の端を上げて私を覗き込む。

「有沢さんと、恋愛的事件がなにかあったでしょ」