契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける



「途中から、結果的に母親に殴られてよかったって思ってただろ」

両頬を、親指と人差し指でぐにっと挟まれ、目をしばたたいた。

指の力加減にシップを貼った頬への配慮はあるにしても、強制的に変な顔にさせられる。しかも近距離からそれを見られているので多少の恥ずかしさはあったのに、それを驚きがかき消す。

「え、なんでわかったの?」
「おまえは全部顔に出るから、見ていればすぐにわかる。昔からそうだっただろ」

当たり前のように言われたら、黙るほかなかった。
たしかに、家族の前ではふさぎ込んではいたけれど、幸い、旅館の従業員は私を気にかけてくれていたし、学校の友達関係もよかった。

だから私は、家族以外の前では安心して笑えたし、不安も口にできていた。
思わず「恵まれてたんだろうなぁ」と呟くと、悠介は私の頬を挟んでいた指を離し、苦笑いを浮かべた。

「あの状況で育ってそんなことを言うのはおまえくらいだろ。自分以外のすべてを呪うのが普通だ」
「えー、物騒すぎるよ。なんか……悠介ってクールだし周りに興味なさそうに見えるから、呪いだとか他人に執着する言葉、すごく似合わなくておかしい」

冷たいわけではないし、その場では喜怒哀楽を見せても、それをその後も引きずる様子は想像できない。良くも悪くもその場限りなイメージがある。

なので、呪うなんて言葉が出てきたのが意外でふふっと笑っていると、それまでとは違い、真面目な眼差しを向けてくる悠介に気付いた。

でも、すぐに何を言うわけでもないので、どうしたのだろうと声をかけようとしたところで、悠介が口を開く。