「ううん。悠介は何も悪くないから、いいよ、そんな……らしくない」
後ろから抱き締められているので、表情はわからない。でも、声が少し沈んで聞こえたので、わざと明るく話す。
お風呂から戻ってきた後も、レストランでも、悠介が私の頬のシップを見てわずかに顔をしかめていたのは知っていた。
頬の腫れに関しては、悠介が何かを思う必要はこれっぽっちもないのに。
「それより、私こそごめんね。聞いてて不快だったでしょ。言っちゃダメな言葉を言った自覚はある。軽蔑されても仕方ないっていうか」
過去の感情だったにしろ、生まれてきたくなかっただとか、消えてなくなりたいだとか、他人に聞かせるような発言ではなかった。
だから謝ると、悠介は「いや」とすぐに否定した。
「俺が軽蔑したのは、おまえの家族だ。不幸にさせるためにおまえを手元に置きたがる母親にも、二十年間、同じ空間にいながら守らなかった兄貴にも、頭の中が煮えるくらいの怒りを感じた。挙句、おまえに手をあげた。あの場で冷静に話を進められた自分に我ながら感心してるくらいだ」
あの時の感情を思い出してなのか、はー……と息をついた悠介が続ける。
「だから、柚希はなにひとつ悪くない……と言いたいところだが、ひとつだけあるな」
「え……なに?」
今回の件では悠介には迷惑かけてしかいないため、全面的に私が悪いのは承知している。でも、あえて『ひとつ』と言われ気になっていると、悠介の手が頬を覆い、顔の向きを変えさせられる。
私の顔を後ろから覗き込むようにしている悠介と至近距離から目が合い、一瞬心臓が飛び上がったものの……。



