契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける



最初は悠介の体の方が熱かったのに、今は馴染んだのか温度差は感じなくなっていた。

そういえば、同居初日、私は引っ越しや夏美さんとの初対面の疲れもあり、ソファで寝落ちしそうになったところをベッドまで運んでもらったんだっけ。

あの時、この腕に抱き上げられたのか……と今更思い出していると、しばらく黙っていた悠介が静かに口を開く。

「あんなこと考えてたんだな。知らなかった」

悠介の言う『あんなこと』がどれを指すのか少し考え、母親との会話が頭に浮かんだ。

『私だって、こんなこと言いたくなかったです。ありがとうって、心から感謝して恩返ししたかった。母の日には毎年プレゼントを選んでみたかったし、学校で制作した折り紙のカーネーションを、ただ捨てるんじゃなくて手渡してもみたかった』
『生まれてきたくなかったなんて……消えてなくなりたいなんて、本当は一度だって思いたくなかったのに』

悠介は、私が別館に入ったあと、廊下で待機していたと言っていた。でも、実際に悠介がどこから聞いていたのかがわからないだけに、迂闊に言ってやぶへびになる可能性もある。

だから「どこから聞いてたの?」と聞くと、「多分、ほとんど聞いてた」と返ってきた。

「〝白川楼〟に向かってる途中、姉さんが電話で、柚希は今まで母親相手に面と向かって意見したり責めたりできていないだろうから、そうさせてやれって言ってたんだ。姉さんの言う意味はわかったし、俺も、母親や実家にひとつの悔いも残さずに去らせてやりたいと思った。だから……すぐに助けてやれなくて悪かった」

悠介の頬が、私のこめかみのあたりにコツッと触れる。
突然の謝罪にまず驚いたものの、今回、悠介に謝られる覚えはない。