「当時の私には難しすぎてよくわからなかったけど、本当に話すたびに言われたから今でも頭から離れないんだよね。あ、今はちゃんと理解してるよ。途中からは、そっか切り捨てればいいんだって、それが光にもなってたし。もしかしたらあのおじいさんは、私の立場を知っていて、その上でアドバイスしてくれてたのかな」
私が父親と不倫相手との子どもだということも、兄が養子だということも、従業員は知っていたけれど、もちろんお客様には話していない。
母親が私を邪険に扱うのは見て知っていても、その理由まで知るお客様はいなかったと思う。
けれど、今考えてみると、あのおじいさんはきっと知っていたのだろう。
そして、将来的に私が母親との縁を切るだろうと、そこまでわかっていたからこその言葉たちだったのかもしれない。
「母親が継いでからは来なくなっちゃったけど……あのおじいさん、元気かな」
穏やかな微笑みを浮かべるおじいさんが懐かしくて無性に会いたくなっていると、悠介が私を抱き締める腕に力を込めた。
「元気だろ。きっとピンピンしてる」
悠介はおじいさんが誰なのかも知らない。
なので、元気かどうかを知れるはずがないし、適当に答えているのは確実だった。
それでも、はっきりと言い切った彼に、私を励ましてくれているのだろうと思い、「そうだね」と笑みをこぼす。



