受けた仕打ちが仕打ちなので、あまり恩だとかはないけれど、私に無関心でいてくれたことにだけは感謝している。
あと、兄が大学に通っているのに私に通わせないのは世間体的によくないと考えたからか、大学に通わせてくれたこともありがたく思っている。
とはいうものの、母親のせいで中退してしまったので学歴としては残せなかったけれど。
コンビニにファストフード店にドラッグストア。広告のポスティングにアイス販売店。たくさんしたバイトの中でも、とくに私が思い入れを持っていた店が、有沢グループが経営する数ある飲食店のうちのひとつ、ファミリー向けのイタリアンレストランで、そこで有沢と出会い話すようになった。
有沢グループが展開しているレストランの中ではターゲット層もメニューの価格も異色で、店長からは試作みたいなものでいつ畳むかは売り上げ次第だと説明を受けていたけれど、私がいる間お店が潰れる気配はなかった。
〝speme〟という、イタリア語で〝望み〟という意味の名前がつけられたそこで高校二年の頃から働き出して……そして、最後は無断で辞めた。
「三年前は、なにも言わずに連絡を絶ってごめんなさい。有沢から何度も電話とかメッセージが入ってたのは知ってた。でも、もしかしたら母親が手を回している可能性もあるかもしれないと思って……なにも返せなかった」



