そう思ったところで、教室に先生がやって来た。

学級委員の坂崎(さかざき)さんが、
「起立、礼」
と言うのに合わせて、みんな席を立って頭を下げる。



いつも思うけれど、坂崎さんの声って高い。

女子の中で比べてみても、きっと高い。

そして、どうしても威圧的に思える。

あたしにはちょっとだけ苦手な声だった。



先生が教科書を開く。

教室の中に、パラパラと紙をめくる音があちこちで聞こえる。



日本史の(おか)先生は、教科書を片手に黒板へ向かった。

丘先生は低くてよく通る声をしている。

黒板に向かいながらでも、丘先生の声ははっきり聞こえた。



しばらく丘先生の広い背中のその奥の、黒板に書かれていく文字を目で追いつつ、ノートに説明を写していく時間になった。

静かな教室の中で、
「ごめん、ちょっといい?」
と、小さな声が聞こえた。



あたしはゆっくり顔を上げる。

隣の席に座る、高田(たかだ)くんがもう一度、
「ごめんね」
と、あたしに声をかけた。