「あの……、部活終わるまで見ててもいい?」

 嫌かな。
 嫌だよね。

 こんな、今日初めて会った人に部活を終始見られるとか。

 うん、やっぱりやめよう。

 嫌に決まってる。

「あ、やっぱりい……」

「見てってよ! てか俺の見とうて欲しい!」

「え?」
 やっぱりいい、と言おうとしたら、飛颯くんが私に被せて言ってきた。

「いいの?」

「ん。せやな……でも一個約束してくれへん?」

「何?」

「俺以外の他の男の、見んでな?」

 私はすぐさまこくりと頷いたのだった。

「大丈夫! 私、飛颯くん以外目に入らないから!」

 飛颯くんはちょっぴり驚いてたけど、ニコッと笑って戻っていった。

 それからずっと、飛颯くんが跳ぶときも順番待ちで並んでいる時も、ずっと目を離さずに見つめ続けた。

 時々飛颯くんは手を振ってくれて、私は嬉しく振り返す。

 そして、飛颯くんを見つめながら考えるのだった。
 私は飛颯くんのことを、どう思っているのか。

 一日にしてこんな大きなことが起こって、飛颯くんに惹かれて、今この瞬間も飛颯くんを見ている。

 朝は生きたくない、なんて考えていたのに、飛颯くんと階段でぶつかってから一度もそんなこと考えていなかった。

 飛颯くんのことをかっこいいと思うし、少しなからずドキドキすることもある。

 けれど私にはまだ、これをなんと呼ぶのか分からなかった。

 でも分からなくてもいいのかな、とも思う。まだ名前を付けなくたって、いずれはピッタリ当てはまる言葉を見つけるはず。



 今の私は、目も頭も飛颯くんでいっぱいだった。