「さーなちゃん」

「っ! 飯久保、くん……」

「名前で読んでや」

「……飛颯くん」

「素直すぎやろが」

 今、今……!
 さなちゃんって言った……?

「その卵くれへん? 俺も欲しいんや」

 え? まあまだ口はつけてないし、別に構わないけれど。
「うん。どうぞ」

 飛颯くんに箸と弁当箱を渡そうとすると、飛颯くんは口を開けて待っている。

 あ、こいつあーんってしてもらう気?
 私は仕方なく卵焼きを飛颯くんの口に入れた。

 それにしても、美味しそうに食べる。

 なんかこういう笑顔見るの好きかもしれない。

「美味しすぎやろ。誰が作ったん?」

「私……」

「え、マジで? それはすごすぎや。ほんとに美味すぎへん?」

「んー、ありがとう」

 なんだか意味が分からなくなってくる。元々飛颯くんの使う関西弁はあってなさそうだし、何となく雰囲気とかから受け取ればいいか。

「もっとちょうだい?」

「ダメ。私の分なくなったら困るし」

「んー、そうやか、明日もここ来るで紗奈ちゃんも来とって。また食べ来るけん俺の分残しとってな」

 じゃあまたね、と手を振って去っていった。

 草が風に揺れ、暗い裏庭に太陽がほんのちょっぴり差した。