「私、改心したのです。だから、別の環境へ身を置いて、ゼロから新生活を始めたいと。ただそれだけのことです。……それより、私の質問に答えていただけますか?」
ひるむと怪しまれる。私は一切動じずにクラウス様にそう返事をする。クラウス様は壁についていた手を退けて私から少し離れると、真剣な眼差しを私に向けた。
「僕がユリアーナを雇ったのは――僕の目の届く範囲に、君がいてほしかったから」
「クラウス様の目が届く範囲に私を…?」
不思議そうに聞き返せば、クラウス様は少し恥ずかしそうな顔をして頷いた。
つまり、どういうことだろう。……はっ! わかったわ!
私を放置したら、いつどこでどんな手段を使ってリーゼをいじめるかわからない。だからクラウス様は、リーゼのために私を見張っておきたかったに違いない。
「嫌ですわクラウス様! そんな心配しなくていいのに!」
「……心配?」
「はい。私がなにか企んでいると思ってるのでしょう? ご安心を。私はもうリーゼに嫌がらせはしないし、おふたりの仲を邪魔する気もありません」
ここでさっさとクラウス様の誤解を解いて、私を雇うことを考え直してもらおう。今ならまだ間に合うかもしれないし。
「ですからクラウス様――どうか、本当に好きな人とお幸せに」
私はクラウス様の両手をとると、そのままきゅっと優しく握りしめて微笑んだ。これは、悪役令嬢でなくなったユリアーナなりの、心からの応援のつもりだった……が。
クラウス様は私の言葉を聞くと、右手で前髪をぐしゃりとかきあげて、大きなため息をついた。表情は明らかに不満そうだ。
「……君はなにもわかってない」
呆れた風に言われ、私は眉をひそめた。せっかくリーゼとの仲を祝福したのに、なぜこんな反応をされなくてはならないのか。
「前の君は、僕を見て眉間に皺を寄せることなんてなかったよね。本当に、僕への好意がなくなったってことかな?」
怪訝な顔を見せた私をクラウス様は見逃さず、そんなことを問いかけてくる。
「私はもう婚約者ではありません。好意のあるなしは、クラウス様に関係のない話かと」
「へえ。あくまでその態度を貫くんだ。……だったら僕も受けて立つよ。ユリアーナ」
クラウス様は私の腕を掴むと、そのまま強引に自分のほうへ抱き寄せてきた。
「ク、クラウス様っ、なにを――」
動揺する私を他所に、クラウス様は耳元に唇を寄せると、無駄に艶やかな声で囁く。
「もう一度、僕しか見えないようにしてあげる」
「……!」
――なにこの急展開。
クラウス様の微笑みが、やっぱり私には悪魔にしか見えない。
「し、失礼します!」
私はクラウス様の身体を押し退けると、走って部屋から出ていった。そのまましばらく廊下を走っていると、途中ですれ違ったメイド長にどやされてしまった。
部屋に戻ると、仕事に出ているのかニコルさんの姿はない。ひとりきりの部屋で、私はベッドに潜り込み、まだ荒れている心拍数を落ち着かせる。
――さっきのはなに? なんでクラウス様が、ユリアーナである私に執着してるの!? ……もしかして、まだクラウス様がリーゼを本格的に好きになる前に、私が勝手な行動をしすぎたせい!?
頭の中でクラウス様とリーゼと関わるイコール〝断罪〟という式が完成している私にとって、これは由々しき事態だ。
でも、明日から向こうも本格的に学園生活が始まる。私がいなくなった学園で、クラウス様は誰にも邪魔されることなく、リーゼと愛を深めていくことだろう。
……そうよね! 今はただ、クラウス様の脳内にバグが起きてるだけよ!
そう思うと少し安心できた私は、襲ってきた睡魔に耐えきれず、そのままベッドの中で瞼を閉じた。
ひるむと怪しまれる。私は一切動じずにクラウス様にそう返事をする。クラウス様は壁についていた手を退けて私から少し離れると、真剣な眼差しを私に向けた。
「僕がユリアーナを雇ったのは――僕の目の届く範囲に、君がいてほしかったから」
「クラウス様の目が届く範囲に私を…?」
不思議そうに聞き返せば、クラウス様は少し恥ずかしそうな顔をして頷いた。
つまり、どういうことだろう。……はっ! わかったわ!
私を放置したら、いつどこでどんな手段を使ってリーゼをいじめるかわからない。だからクラウス様は、リーゼのために私を見張っておきたかったに違いない。
「嫌ですわクラウス様! そんな心配しなくていいのに!」
「……心配?」
「はい。私がなにか企んでいると思ってるのでしょう? ご安心を。私はもうリーゼに嫌がらせはしないし、おふたりの仲を邪魔する気もありません」
ここでさっさとクラウス様の誤解を解いて、私を雇うことを考え直してもらおう。今ならまだ間に合うかもしれないし。
「ですからクラウス様――どうか、本当に好きな人とお幸せに」
私はクラウス様の両手をとると、そのままきゅっと優しく握りしめて微笑んだ。これは、悪役令嬢でなくなったユリアーナなりの、心からの応援のつもりだった……が。
クラウス様は私の言葉を聞くと、右手で前髪をぐしゃりとかきあげて、大きなため息をついた。表情は明らかに不満そうだ。
「……君はなにもわかってない」
呆れた風に言われ、私は眉をひそめた。せっかくリーゼとの仲を祝福したのに、なぜこんな反応をされなくてはならないのか。
「前の君は、僕を見て眉間に皺を寄せることなんてなかったよね。本当に、僕への好意がなくなったってことかな?」
怪訝な顔を見せた私をクラウス様は見逃さず、そんなことを問いかけてくる。
「私はもう婚約者ではありません。好意のあるなしは、クラウス様に関係のない話かと」
「へえ。あくまでその態度を貫くんだ。……だったら僕も受けて立つよ。ユリアーナ」
クラウス様は私の腕を掴むと、そのまま強引に自分のほうへ抱き寄せてきた。
「ク、クラウス様っ、なにを――」
動揺する私を他所に、クラウス様は耳元に唇を寄せると、無駄に艶やかな声で囁く。
「もう一度、僕しか見えないようにしてあげる」
「……!」
――なにこの急展開。
クラウス様の微笑みが、やっぱり私には悪魔にしか見えない。
「し、失礼します!」
私はクラウス様の身体を押し退けると、走って部屋から出ていった。そのまましばらく廊下を走っていると、途中ですれ違ったメイド長にどやされてしまった。
部屋に戻ると、仕事に出ているのかニコルさんの姿はない。ひとりきりの部屋で、私はベッドに潜り込み、まだ荒れている心拍数を落ち着かせる。
――さっきのはなに? なんでクラウス様が、ユリアーナである私に執着してるの!? ……もしかして、まだクラウス様がリーゼを本格的に好きになる前に、私が勝手な行動をしすぎたせい!?
頭の中でクラウス様とリーゼと関わるイコール〝断罪〟という式が完成している私にとって、これは由々しき事態だ。
でも、明日から向こうも本格的に学園生活が始まる。私がいなくなった学園で、クラウス様は誰にも邪魔されることなく、リーゼと愛を深めていくことだろう。
……そうよね! 今はただ、クラウス様の脳内にバグが起きてるだけよ!
そう思うと少し安心できた私は、襲ってきた睡魔に耐えきれず、そのままベッドの中で瞼を閉じた。


