せっかく侍女になったのに、奉公先が元婚約者(執着系次期公爵)ってどういうことですか ~断罪ルートを全力回避したい私の溺愛事情~

 クラウス様は私を自室へ招き入れると、扉を閉めてじっとなめるように私のことを凝視し始める。
「……今日はメイド服に着替えないんだね?」
 そして真剣な顔をして、くだらないことをぼそりと呟いた。
「はあ。本格的に侍女として働くのは明日からなので」
 愛想のない物言いで返事をする。
 メイド長の目がなくなった今、私はまた、クラウス様につーんとした態度をとることができるのだ。
「残念。気になることのひとつだったのに。君のメイド服姿。まぁでも、明日のお楽しみってことか」
 にこりと笑うクラウス様を見て、私は絶句する。
 ――私(ユリアーナ)のメイド服姿が、進級パーティーより優先順位が高いっていうの!? クラウス様ってまさかメイド服フェチ!?
 小説ではなかった上に、大して知りたくなかった情報だ。クラウス様を見る目が一気に変わってしまう。
「……あのさユリアーナ。そんなあからさまに引いた顔をしないでくれる?」
 気持ちが顔に出ていたようで、クラウス様が若干傷ついた表情を見せた。
 ……あ、そうだ。この機会に、気になっていたことをクラウス様に聞いてみよう。
「あの、クラウス様」
「うん?」
「私の勤め先がシュトランツ公爵家に決まったのは、クラウス様の希望だったと父に聞きました。いったいなにをお考えなのでしょうか? 婚約破棄した相手である私を、侍女として屋敷に迎え入れるなんて……」
 いろいろ予想はしてみたが、やはり真意は読めないまま。クラウス様がこの問いになんと答えるのか、私はごくりと生唾を飲んで待った。
「……その言葉、そのままそっくり君に返すよ」
「え? ――きゃっ!」
 答えをもらえずに、私はいつのまにかクラウス様に壁際に追い込まれていた。顔の両側には彼の手があって逃げることができない。
「君はいったいなにを考えてるんだ? ユリアーナ」
 いつもより低い声でそう言うと、クラウス様は鋭い眼差しで私を見下ろした。口は笑っているけど、目がまるで笑っていない。
「突然態度を変えて婚約破棄した挙句、なにも言わず学園を退学。終いには侍女になるなんて……これまでの君じゃあ考えられない行動だ。さっきもイーダにあんなに強く言われてもなにも言い返さなかったし……最近のユリアーナは普通じゃない。異常だよ」
 そう言われるとなんと返せばいいかわからない。こちらとしても、前世の記憶を思い出すなんて異常事態なのだ。
 これまでと違うのは中身が別人だからと言っても、絶対に信じてもらえない。それどころか、さらにおかしくなったと思われるだけだ。