やっと入学式が終わった。

ただの入学式なのにすっごい緊張しちゃったな。

右手を胸に当てて深呼吸をする。

これからもっと緊張することが待ってるんだ。

大丈夫かな、不安だな…
私にできるのかな…

「…がんばらなくちゃ」

下がってくる口角を両手でグイッと上げて、無理やり笑顔を作った。

ぎこちない笑顔だけど、とりあえず第一印象って大事だもん!

扉の前、意を決してドアノブを掴む。

家を出て寮暮らしなんて初めてだけど、男の子と2人で暮らすなんて初めてどころの問題じゃないからー…!

「初めましてっ」

あ、意気込みすぎて思ったより大きな声出ちゃったかも!

高橋羽実(たかはしうみ)って言います、お願いします…!」

緊張のあまり思わず目をつぶってしまった。
おかげで何も見えなくて、くすって笑い声だけ聞こえてきた。

「超気合い入ってんね」

その声にゆっくり目を開けた。

整った顔に、色白の肌、ピシッと制服を着こなす姿からいかにも優等生って感じで。


まるで王子様みたいー…


それが一番最初に思ったことだった。

「俺は一ノ瀬白(いちのせはく)、よろしくね」

スッと手を差し出され、出された手もキレイで、私も同じように手を差し出…さなきゃって思ったのに。

「よ、よろしくお願いしますっ!きょ、今日はいい天気でよかったですね!すごく入学式日和!」

伸ばした手をそのまま窓の方へ、一ノ瀬くんの顔を見ないように部屋の中に入った。

今の絶対感じ悪かった。
自分でもそれはよくわかってる。

なのに、でも、どうしても…

手が握れなかった。

私こんなのでやっていけるのかな。

こんな自分を変えたくてここへやって来たのに。