「(千冬先輩と付き合ってるとかないですよね?)」
「え⋯⋯」
「(一年の間で千冬先輩に幼なじみがいるって噂になって、それが石川先輩って分かって)」
「⋯⋯幼なじみ、」
「(ハッキリ言うとわたし千冬先輩に憧れてて、気になってるんですよ、幼なじみと言いつつ本当は付き合ってるのかなって)」
顔から笑みを消す彼女はまるで品定めをする様にしてわたしを視線でなぞっていく。それは心地良いとは到底言い難いもので、こういう事、たまにあったなと思い出した。
中学の時、後輩からも同級生からも先輩からも同じ質問をされた事が何回もある。
幼なじみというのは傍から見ると恋愛関係に見えるのだろう。千冬がモテる事も相まって今まで何度も何度も“千冬と付き合ってるの?”と言われてきた。
その度に、否定する度に、モヤモヤする心。
だってそういう事を聞いてくるって事は高確率で千冬の事を好きだからで⋯。焦って、落ち込んで、千冬には好きな人がいるのかなって不安になって。
⋯⋯だけど耳が聞こえなくなってからは、こういう事は初めてだったから。
今年同じクラスになるまで千冬とはほとんど話さなかったし、耳の聞こえないわたしと千冬が付き合ってるなんて誰も思わなかったのかもしれない。
でもそれは誰も口にはしてこなかった。
誰も、わざわざ「聴覚障害者のあなたと千冬が付き合っているとは思えない」なんて言わない。
わたしが聞こえないだけで周りではそういう事を囁かれていたのかもしれないけれど、聞こえなければわたしは現実を直視しないでいられた。
それなのに彼女たちは目を逸らしたい現実を突き付けてくる。
きっと千冬と付き合ってるの?という質問はどうでも良くって、付き合ってなんていない事を知った上で、ただ単に幼なじみという立場だけを持っているわたしを攻撃したかったのかもしれない。
幼なじみという存在が気に入らなくて。
それが聴覚障害者という立場のわたしなら尚更彼女たちは面白くなかったのだろう。
まるでわたしが悪だとでも言う様に切っ先を向けて
くる。
世の中には意地悪がそこら中にばらまかれている。
「付き合って、ないよ⋯」
「(⋯⋯)」
「付き合ってない」
「(⋯ですよね)」
唇だけを釣り上げた彼女の笑みはどこか不自然で、卑屈な想像が的中してしまったのだと簡単に分かった。
「(千冬先輩と石川先輩って仲良くないって聞いたし)」
「⋯⋯」
「(そもそも、石川先輩って耳が聞こえないんですよね?そういう人と付き合うとか、普通ならないですよね)」
「普通なら⋯?」
「(だって、わざわざ障害のある人と付き合うのって考えにくいじゃないですか)」
「⋯⋯」
悪意を持って向けられる敵意はとても恐ろしい。
一言一言が心に突き刺さって抉っていく。
その痛みは何度も経験したとしても、きっと、誰も、慣れる事は出来ないんだろう。
「え⋯⋯」
「(一年の間で千冬先輩に幼なじみがいるって噂になって、それが石川先輩って分かって)」
「⋯⋯幼なじみ、」
「(ハッキリ言うとわたし千冬先輩に憧れてて、気になってるんですよ、幼なじみと言いつつ本当は付き合ってるのかなって)」
顔から笑みを消す彼女はまるで品定めをする様にしてわたしを視線でなぞっていく。それは心地良いとは到底言い難いもので、こういう事、たまにあったなと思い出した。
中学の時、後輩からも同級生からも先輩からも同じ質問をされた事が何回もある。
幼なじみというのは傍から見ると恋愛関係に見えるのだろう。千冬がモテる事も相まって今まで何度も何度も“千冬と付き合ってるの?”と言われてきた。
その度に、否定する度に、モヤモヤする心。
だってそういう事を聞いてくるって事は高確率で千冬の事を好きだからで⋯。焦って、落ち込んで、千冬には好きな人がいるのかなって不安になって。
⋯⋯だけど耳が聞こえなくなってからは、こういう事は初めてだったから。
今年同じクラスになるまで千冬とはほとんど話さなかったし、耳の聞こえないわたしと千冬が付き合ってるなんて誰も思わなかったのかもしれない。
でもそれは誰も口にはしてこなかった。
誰も、わざわざ「聴覚障害者のあなたと千冬が付き合っているとは思えない」なんて言わない。
わたしが聞こえないだけで周りではそういう事を囁かれていたのかもしれないけれど、聞こえなければわたしは現実を直視しないでいられた。
それなのに彼女たちは目を逸らしたい現実を突き付けてくる。
きっと千冬と付き合ってるの?という質問はどうでも良くって、付き合ってなんていない事を知った上で、ただ単に幼なじみという立場だけを持っているわたしを攻撃したかったのかもしれない。
幼なじみという存在が気に入らなくて。
それが聴覚障害者という立場のわたしなら尚更彼女たちは面白くなかったのだろう。
まるでわたしが悪だとでも言う様に切っ先を向けて
くる。
世の中には意地悪がそこら中にばらまかれている。
「付き合って、ないよ⋯」
「(⋯⋯)」
「付き合ってない」
「(⋯ですよね)」
唇だけを釣り上げた彼女の笑みはどこか不自然で、卑屈な想像が的中してしまったのだと簡単に分かった。
「(千冬先輩と石川先輩って仲良くないって聞いたし)」
「⋯⋯」
「(そもそも、石川先輩って耳が聞こえないんですよね?そういう人と付き合うとか、普通ならないですよね)」
「普通なら⋯?」
「(だって、わざわざ障害のある人と付き合うのって考えにくいじゃないですか)」
「⋯⋯」
悪意を持って向けられる敵意はとても恐ろしい。
一言一言が心に突き刺さって抉っていく。
その痛みは何度も経験したとしても、きっと、誰も、慣れる事は出来ないんだろう。



