わたしの幼少の頃の出来事は、忘れていたのではなく失われていた。

 わたしの育った国が滅ぼされ、母と兄たちと森の中の別荘に隠れていたことがあった。その際、ラインハルトとその部下が、諜報活動で訪れた。その時期、バーデン帝国は戦後の混乱に紛れてわたしの国を滅ぼした国ともども二国を手に入れようとしていたらしい。

 しかし、諜報活動がバレてしまった。ラインハルトは手傷を負ったばかりか部下たちとはぐれてしまい、い、どこかに潜伏する必要があった。

 いまははっきりと思い出せるし、そのときの光景が脳裏にくっきり出てくる。