「ヨーロッパではね、ピアノやギターはもちろん、ヴァイオリンやチェロとか日本の一般の家庭じゃ触れないような楽器を習うことができるんだ。俺はずっとホルンを小さい頃から習ってたから、絆に教えられるよ」

「本当、ですか?」

絆の胸が熱くなっていく。初めてホルンの音を出せた時のことを思い出し、悲しみとは真逆の感情で泣いてしまいそうになった。

「じゃあ早速行こう!ホルン、俺の泊まってるホテルの部屋に置いてあるからさ!」

「えっ、ホルン持って飛行機に乗って来たんですか!?」

「捜査の息抜きに弾くことがあるんだよ。綺麗な音色は心を落ち着かせてくれるからね」

「そうなんですね。音が心を落ち着かせるのは、わかります」

もしもタイムスリップをするのなら、全てに絶望していた九年前に戻りたいと絆は思った。ボロボロになった自分を抱き締め、こう言ってあげたくなったのだ。

『九年後のあなたはとてもかっこいい人に愛されて、大好きなホルンをまた吹けるのよ』