そう言って、手を離した男の人――生吹くん。

生吹くんから解放された手に、冷たい風がパシンと当たった。


その瞬間――まるで目が覚めたかのように、私は口を開いた。



「え、と……、」



何か言わなきゃ!
でも何を言おう……。

あ〜もう、なんでもいい。
とりあえず、挨拶だっ。



「また、ね。い、生吹くん……っ」



ニコッ



「!!」

「(う、上手く、笑えたかな……っ?)」



恥ずかしくって、照れくさくって。

綺麗な生吹くんに、これ以上、焦った私を見られたくなくて。


挨拶もそこそこに、私は今度こそ、全速力でゴミ捨て場を後にした。




一人その場に取り残された生吹くん。

私のお弁当箱の袋を片手に持ったまま、呆然と立ちすくむ。

だけど、その顔は、私ほどではないけど、薄い赤色に染まっていて……



「あの笑顔、はぁ。やられたな」



少しだけ笑って、困ったように眉を下げたのだった。





そんな事を知らない私は、教室に戻って、やっと。

お弁当の袋を返してもらい忘れたことに、気づいたのでした……。