「卵焼き、おひたし、ウィンナー、きんぴらごぼう……。どれも簡単に作れるんですよ」


ウィンナーに至っては、チンするだけだしね。ありがたや現代。

それなのに、生吹くんは私のお弁当に釘付けだった。

瞳がキラキラしてる。
ちょっと可愛い……。



「美月の手作り、美味しそう」

「ふ、普通ですよッ。
食べて確認してみますか……?」

「え」

「え?あ、」



しまった。



私がそう思った時には、もう遅くて。

生吹くんが「いいの?」と、ニコリと笑って私を見つめる。細められた目に「期待」の二文字が浮かんでいた。



「美月の、食べたい」

「っ!」



ドキッ



制御出来ない心臓が、また跳ねる。どうしようもなく緩んだ顔が、カッと熱を帯びた。



「(そんなに物欲しそうな顔をして、そんなセリフ言わないでよ……っ)」



生吹くんの綺麗な顔で、無邪気に見つめるのは反則だ。

「やっぱナシで」って言えなくなっちゃうもん。



「(うぅ、身から出た錆だ……)」



褒められ慣れてないから、「美味しそう」って言われて、咄嗟に出た言葉。


「食べますか?」なんて。


何が何でもバカすぎる……。
私ったら、恥ずかしい。



「(無かったことには、ならない……よね)」


目をキラキラさせた生吹くんは「まだかまだか」と待ってくれている。

私は諦めて、お弁当の中を見渡した。



「た、卵焼きが、掴みやすいので……。
それでもいいですか?」

「ん。何でも好き」

「じゃ、じゃあ……はい」



卵焼きを掴んで、フェンスの穴を通り抜ける。

すると、形の良い口が、ゆっくりと動いた。