「美桜様!お待ちしておりましたわ」
 
馬車から降りたとたん、両手を広げたクレアにハグで熱烈な歓迎を受ける。

「あ、ありがとう、クレア」
そう言いつつ、美桜は体をのけ反らせる。

(うぐ、ちょっと苦しい)

今朝朝食を取った後、絵梨が起きるまで何をしようかと考えているところにメアリーがやって来た。
ちょっと戸惑いながら口を開く。

「美桜様、今日パレスにお越し頂けないかと旦那様が」
「え?アレンのお父様が?何の用かしら」
「さあ、そこまでは伺っていないのですが。いかがいたしましょう?」
「それはもちろん、お伺いします。でも何の用かしらね」
 
今回は十時にお迎えが来るとのことで、準備に時間がかけられるメアリーはほっとしたようだった。

丁寧にメイクをしてくれ、髪は少し低めのポニーテールに、ドレスは薄いグリーンでパフスリーブの可愛らしいデザインを選んでくれた。

メイソンが時間通りに馬車で迎えに来てくれ、美桜は一人乗り込んでパレスにやって来た。

まだ二度目なのに、どこか懐かしいような、ほっとする気がした。

「今日の美桜様も、また格別に素敵ですわ」

ようやく離れたクレアが言い、そんな大げさな、と美桜は照れくさくなった。

「さあ、中へ入りましょう」
 
クレアは嬉々として美桜を促す。

(なんだろう、クレアちょっと若返った?こんなに元気だったっけ?)
 
おととい初めて会った時のクレアを思い出してそう考えながら、美桜はパレスの階段を上がる。

前と同じ部屋に案内されると、既にテーブルの上には数々のケーキやクッキーが用意されていた。

相変わらずのニコニコ顔で、クレアは紅茶を淹れてくれる。

「さあどうぞ。今日はロイヤルミルクティにしてみました」
「わあ!私、これ大好きなの。ありがとう」
 
一口飲んで、おいしい!と言うと、クレアは嬉しそうに頷いた。

「ケーキもどうぞ召し上がれ。あ、ランチももうすぐですから、ほどほどに、ですけど」
「こんなにたくさん並べられたら、ほどほどに出来ないわよ」
 
まあ、そうですわね、と他人事のようにクレアは笑った。