桜のティアラ〜はじまりの六日間〜

 なんだかやけに部屋が静まり返っている気がしてふと横を見ると、クレアがソファにもたれてうつらうつらとしていた。

 美桜はゆっくり立ち上がって、空いているベッドからブランケットを持ってくると、そっとクレアに掛けた。

 夜中の二時を過ぎた頃だろうか。
 アレンの額のタオルを交換しながら、美桜はあれ?と手を止めた。

 (熱が上がってる?)
 
 額や首筋に手をやると、やはり少し前よりも熱く感じる。
 アレンの呼吸も荒い。

 体温計で測ってみると、一旦下がっていた熱が、再び三十八度を超えていた。

 (どうしよう、大丈夫かしら)
 
 不安になって、クレアを起こそうかと迷う。
 だが、疲れているであろうクレアを起こすのもはばかられる。

 (夜中だから熱がぶり返したのかな)
 
 自分の経験を思い出しながら、美桜はその可能性を考えた。

 (きっとそうかも。とにかく冷やしながら、もう少し様子を見よう)
 
 己を励ましながら、ひたすらタオルを絞っては交換、また絞っては汗を拭くのを繰り返す。
 
 二時間くらい経った頃、アレンの様子が落ち着いてきたことに気付く。
 息苦しさもなくなったようで、穏やかに眠っている。

 美桜はもう一度体温計で測ってみた。

 (三十六度五分!やったー、すっかり平熱ね)
 
 嬉しさのあまり声を出しそうになり、慌てて口を押える。

 (良かった!もうこれでひと安心ね)
 
 そう思った途端、急に眠気が襲ってきた。

 (やっぱりちょっと疲れたのかな)

 そして美桜は一気に眠りに落ちていった。