と,可愛らしい声が私にかけられ,私ははっと顔をあげる。

桜島せんぱい,と呼ばれて,意識は一気に取り戻された。



「木村,さん」



木村 絵莉花(きむら えりか)さん。

彼女も同じく私の後輩で,佐藤くんの1つ先輩。

情けない声色と申し訳なさそうに下がった眉を見て,私は用件を悟る。

どう頑張っても仕事が遅いらしく,たまにこうしてやって来るのだ。



「すみませんせんぱい。どうしても書類の作成が間に合わなくて…」

「ん,分かった。多分この前話してたやつだよね? 作成に必要な資料だけそこ置いといてくれればいいから」



頑張ってね,と声をかけると,彼女は嬉しそうに笑う。



「ありがとうございます…! 頑張ります!」



たっと軽く駆けた彼女の先にいるのは,大学の時からの彼女の知り合い。

木村さんを呆れたような顔で諌なめていた。

ぴゃっと木村さんが肩を竦める。