「あーあ。行っちゃった」



そんな気は,してたけど。

何分も経って,俺は遅れて反応した。

ぞろぞろと社員が戻っては俺を奇怪げに見つめていくなか,先輩だけが戻ってこない。

これは…会社をぐるっと回って帰ったな。

俺はふぃー…っと息を吐く。

やり過ぎたかな……

思っても,しょうがない。

ー朝目覚めたとき,最初に刺激されたのは嗅覚だった。

優しくて柔らかい,自宅では考えられない匂い。

それは世界で1番好きな匂い。

薄目を開けてぼーっとしていたら,確実にそうだと気がついて。

隣で先輩が寝ているような違和感にかられて,俺は飛び起きた。



『…え?』



どこ,なんて考える前から分かってる。

記憶を辿れば,それは明確だった。



『じゃあ,え?』



夢じゃ,ない。

慎重にと隠していた言葉を,何のつもりもなく伝えてしまった。

だって,夢だと思ったから。

俺を呼び捨てて覗き込む彼女を,可愛いと思ったから。

その事に気がついて,少し焦る。

だけどそれよりも。



『先輩,は?』



俺にはそっちの方が重要だった。