無表情ながらにも驚いている本人は、スマートフォンから顔をあげて私を捉える。
「え、なに勝手に───…、」
やっと帰宅して一呼吸ついていたのかもしれない。
これからシャワーを浴びるところだったのかもしれない。
でもそんなものを無視する勢いで部屋に上がって、ぎゅっと、雨で湿った制服ごと包み込んでしまったのは。
─────そう、無意識。
「……ねえ」
「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ。怖くないよ、へいきへいき」
「………」
「楽しいこと考えよ?晴れたら何がしたい?虹が出るかもしれないね。
ほーら、ぜんぜん怖くない。お姉ちゃんがぜんぶのものから守ってあげる」
「………」
強(こわ)ばっていた肩の力が、だんだん抜けてゆく。
それはもう何もかもを諦めたように静かだった。
「………」
「………」
「………」
「………」
かの有名な哲学者、シロゥサキ・ユーラ12世は言った。
意識というものは、とんでもない場面で戻ってきやがるのだ───と。



