「交換ノートだって、終わるの嫌なんだけど」



身体がそっと離されると、涙だらけの頬が包み込まれる。

ひとつひとつ拭ってくれる動きは、出会った頃と同一人物なのかと疑ってしまうほどで。


今の彼は、どんな気持ちを抱えている顔なんだろう。




「────…俺はゆらが好きだ」




それは、雑誌の撮影のとき。

路地裏で私だけが見ることのできた笑顔とまったく同じだった。



「す、好きって…、ど、どういうこと…っ、わかんない、私アホだから分かんないよナナちゃん…っ」



根掘り葉掘り聞く女は嫌いだと知っているけれど、さすがに聞いてしまった。


今まで私が勝手に思って実行してきた作戦は、ぜんぶ的外れなものばかりだったから。

いつもナナちゃんには呆気なく砕け散って、それでもめげずに向き合ってきた。



「だからさ。ゆらにとって“義弟”じゃなく……今度は“彼氏”の俺を手懐けるために頑張れってこと」



意地悪に微笑んだ期待いっぱいの表情から、いとおしそうに見つめてくる。



「そんで、次は俺のために髪伸ばしてワンピース着ろってこと」



雨空が晴れて、いつの間にか顔を出していた太陽。

木々から落ちる水滴は、キラキラと輝く光の粒。



「ナナちゃん……っ」



ひとつ年下の男の子へ、背伸びをするように腕を回した10月のこと───。