用意してきたマドレーヌが入った紙袋を手下げて、私は跳ねるように階段を上がった。
───コンコン。
「な、七兎くん…!はじめましてっ、私、今日からここに住まわせてもらう城崎 ゆらって言います…!」
……あれ、返事がない。
ノックもちゃんとしたし、わりと大きい声で挨拶してると思うんだけど…。
ドアの前で何度か声をかけてみても応答はなく。
「あ、開けます…!」
ゆっくりとレバーハンドルを下げる。
鍵はかかっていないみたいで、ガチャッと開いた。
「えっと、七兎くん、」
そりゃあヘッドフォンをしていれば聞こえてないのは納得だ。
ドアに背中を向けるように勉強机に向かっている姿は、今日から義弟になる男の子なんだと実感するとドキドキしてきた。
「あのう、七兎くん…?」
「………」
「七兎くーん…?」
「………」
日当たり良好な室内に明るく照らされる黒髪は、ちょっとだけ茶色にも見える。



