もう手は尽くしきったからこそ、家に戻ってきただけなんだと。
病院で死ぬか、家族のそばで死ぬか、ただその選択肢でしか無かったのだと。
『かえせ…、おれのお母さんをかえせ…っ、返してよお……っ!!』
でも俺は母よりも父のほうが許せなかった。
だって俺はどんな形であれ、母さんが生きてさえいてくれれば良かったんだから。
病院に居たほうがまだ安心だったかもしれない。
離れていたとしても、会いに行くことなんて容易いことだ。
それなのに病院から母親を遠ざけたのは父さんだと、俺は父親をこの上なく恨んだ。
『えっと…あの、わたし、2組の小山田 佳純(おやまだ かすみ)っていいます…っ、
十波くんのことが……、1年生の頃からずっと気になっていて…!』
俺はきっと、女という生き物に騙されつづける人生なんだと思う。
『あっ、でも告白とかっ、そーいうのじゃなくて…!えっと、わたしのことを知ってくだされば十分というかっ、そのっ、おっ、お友達に───』
『付き合う?』
『……えっ?』
『いいよ、小山田さんなら』



