『七兎…?』
『…ほんとうに、大丈夫だよね…?』
そして俺が小学4年生になった頃、母さんは退院して家に戻ってきてくれた。
これでもう大丈夫なんだって、やっと家族が戻ったんだって、嬉しいはずなのにどうしてか素直に喜べなくて。
すごくすごく、怖かった。
『七兎隊長!お母さんは無事に帰還いたしましたっ、敬礼ーっ!』
『…ふっ、あははっ!よくぞ戻ってきてくれた!けいれいっ』
『ふふっ、大好きよ七兎~!』
『わっ!…おれも、だいすき』
母さんは嘘つきだ、大嘘つきだ。
倒れたときすでに大腸がんの悪性腫瘍があり、他の臓器へ転移していた。
それから何度も抗がん剤治療を試みたが、また身体中のリンパに転移して、末期のステージ4になるまで時間は取らなかったこと。
『大丈夫って…言ったじゃん…、敬礼したじゃん…っ、ただの過労なんだろ…?なのになんで……、なんで、』
それから1ヶ月しないうちに、母親の笑顔を見ることは一生できなくなった。
『うそつき…っ、お母さんの大嘘つき……!!』
『七兎…、お母さんはな、お前の母さんは、』
『お父さんも嘘つきだ…!!本当はぜんぶ知ってたくせに……っ、おまえがお母さんを殺したんだ……っ!!』



