「…敬礼」
「あっ、はい…!」
「……はは」
ドックン、ドックン、ドックン。
どう考えても花火の音じゃない。
そろそろ打ち上げられる時間帯だけど、きっと周りの人間には聞こえていない音だ。
これは私にか聞こえない音だ───…。
「ここ、たぶん花火がよく見える」
「でも…時間、」
「ちょっと休憩。走り回って疲れた」
「…うん」
本当に走り回ってくれたんだ…。
緩んだ浴衣の襟から少し汗ばんだ鎖骨が見えて、それすらもトクンと跳ねさせる。
「なにか飲み物を買ってくるね」と言えば、パシッと腕が掴まれて「また俺に走らせんの」と、返ってきて。
「…なんでそんな遠いんだよ」
「だって、半径5メートルは…」
「もうそんなの無いだろ。今さらすぎ」
「えっ、ないの?」
「……あんたには」
私たちのまっすぐ先に開いた大きな花火。
いちばん大切な部分を聞き逃してしまった後悔と、ほんのわずかな距離と、たまにぶつかる肩と。
「…楽しかった?」
「う、うん。すごく楽しかった…」
「牛串、やっぱうまかったよな」
「…一緒に来てくれてありがとう。ナナちゃん」



