やっと会える。
 やっとマリエル様に会えるのね!

 はやる気持ちを抑えて小さく深呼吸すると、傍らに立つ男性に目配せして執務室の扉を開けるよう促した。
 ゆっくりと扉が開いて、正面に軍服姿の男性たちがズラっと立っているのが見える。
 その中央に立つ、ひときわ立派な体躯の凛々しい男性がわたしの婚約者であるマリエル様だ。

 なんてかっこいいのかしらっ!
 濃紺の軍服がよくお似合いだわ。

「マリエル様!!」
 後先考えずに衝動的に駆け出した。
 だって、やっと会えたんですもの。許してもらえるわよね?

 抱き着いたのはさすがにやりすぎだったかもしれない。
 でも仕方ないわ、体が勝手に動いてしまったんですもの。この日のために毎晩イメージトレーニングをしていた成果が自然と出てしまったのね。
 助走もジャンプの踏切のタイミングもバッチリだったわ!

 誤算だったのはマリエル様の体がまるで鋼のように硬かったことだ。
 鼻を強かにぶつけてしまった。
 でも、そんなわたくしをいたわるようにマリエル様がわたしの背中と腰に腕を回して……なんて大胆なことをなさるのかしら。みなさんが見ていらっしゃるというのに!

 そう思っていたら、ふわっとした感覚と共に視界が大きく動いて……「ぐえっ!」という声が聞こえた。
 どういうわけかマリエル様が後ろ向きに倒れて、それを両脇にいた隊員さんが下敷きになって庇ってくれたようだった。

 まあ、身を挺して隊長をお守りするだなんて素敵だわ。慕われていらっしゃるのね!
 ところがマリエル様のご様子がおかしかった。
「マリエル様? どうなさったのですか?」
 マリエル様は目を開いているものの反応がない。試しに頬を軽くぺちぺち叩いてみたけれどピクリとも動かない。

 どうしましょう! 死んでるわ!