予定通り、香魚子はバースデーカードの入稿を終えたタイミングで会社に退職の意向を伝えた。

鷲見(すみ)チーフはなんとなく嬉しそうでした…。」
「あの人はなかなか変わらないだろうな。」
香魚子と(あまね)は苦笑いした。
土曜日、香魚子は周と過ごしていた。
「仕事はひとまずデザイン系の契約社員で働きながら、フリーのデザインの仕事も探します。」
「紹介できそうな仕事先もいくつかあるから紹介するよ。」
「ありがとうございます!周さんは物件探し、どうでしたか?」
「だいたい目星はついた。とりあえず事務所は小さくて良いから。」
「じゃあ、周さんもそろそろ退職の準備ですね。私は2年弱くらいでしたけど、周さんは…10年以上ですか?そんなに長く働いたら、寂しいですね。」
香魚子の言葉に、周は少しピーコックラボでの年月を振り返っているようだった。
「正直、新卒で入った頃から起業するのは決めてたから、そこまで感傷はないけど…鴇田(ときた)とか川井さんがどうなっていくのかは気になるかな。まあ同じ業種にいれば嫌でも会うけどね。」
「そうですね。川井さん、私のプレゼンに100点つけてくれたんですよ。」
香魚子は思い出して少し笑った。
「退職する前に川井さんと食事でも行く?喜ぶんじゃない?」
「はい。じゃあぜひ鴇田さんも。」
「鴇田?え、急にめんどくさくなってきた…。」
香魚子はクスクスと笑った。