鴇田の言葉に、香魚子は少し考えた。
「…そういう人もいるかもしれませんが…私は差はあれど毎回気持ちを込めすぎちゃうかもしれないです。今回のは特別に大事なデザインでしたけど、他のときも…選ばれなかったデザインのどこが悪かったのかずーっと考えちゃいます。」
香魚子は少し照れ臭そうに言った。
「目白さんと鷲見さんがやってることがどんだけ酷いか、なんとなくわかっただろ?辞めていったデザイナーも、みんな真剣にやってたはずだよ。」
周が言った。
「………」
鴇田は黙って香魚子に頭を下げた。
「すみませんでした。」
「えっ」
「毎回そこまで考えずに部長の命令通りに邪魔して…」
「………」
鴇田を責める気もないが、傷つかなかったといえば嘘になる。
「……レターセットのコンペのときの…」
香魚子が口を開いた。
「花柄、覚えてますか?」
「…覚えて…ます…。」
「なら、それだけで充分です。これからは不正が無くなると良いなって思いますけど…現実的にはわからないので、せめてデザイナーが真剣に作ったデザインを真剣に見て、覚えててほしいです。他のデザイナーさんの気持ちはわからないですが…私はそれだけで充分です。」

香魚子が企画デザイン部のフロアに戻ると、部長の鷹谷からコンペの審査用紙を渡された。
「おめでとう。」
「ありがとうございます。」
周に諭されてしまった鷹谷はなんとなくバツが悪そうだった。
審査用紙には、前回と違い称賛の言葉が並んでいた。川井の審査用紙には【100点】と書かれていたが、赤いペンで10点と修正されていて、香魚子は思わず笑ってしまった。
鷲見はこの日、会社を休んでいた。
「この間のコンペの雰囲気、鷲見さんと目白部長ってもしかしてさぁ…」
噂好きな同僚がまた噂話に花を咲かせている。
「それにしても、明石さんかっこよかったよね〜。一生ついていきます!って感じ。」
「わかる〜!進行役も超うまかったしね〜!」