コンペを終えた夜、香魚子は(あまね)と電話で話した。
「プレゼンおつかれさま。」
「…周さんも、おつかれさまでした。」
香魚子が気を使うように言うと、周は小さく笑った。
「あんなこと言ってしまって…あの後大丈夫でしたか?」
「うちの部長に呼び出されたけど…」
「え…」
「褒められた。うちの部長と目白さんて仲悪いから。それもどうかと思うけどね。」
「怒られなかったなら良かったです。」
香魚子は安堵の声を漏らした。
「まああとは社長たちが判断するんじゃない?」
コンペの会場には社長をはじめとする幹部社員も揃っていた。

「ところで、周さんが進行役なんて珍しいですね。」
香魚子が質問した。
鴇田(ときた)に代わってもらったんだ。」
「…鷲見(すみ)チーフと目白部長のことと関係あるんですか?」
「あの二人がやってるくだらない不正を防ぐには進行役やるのが一番早い。」
「……?」
「コンペのプレゼンの順番はブラインドってことになってるだろ?」
「はい。」
「でも実際は操作されてて、進行役の営業に目白さんから鷲見さんの順番の指示が出てる。」
「え…」
「目白さんもさすがに“鷲見さんに高い点入れろ”とは言えないから、“4番に入れろ、他には厳しい質問をしろ”って逆らえない若手に指示出してるんだ。」
毎回毎回鷲見だけに票が入るのは不自然なので、カモフラージュで他のデザイナーに入れさせることもあったらしい。香魚子は電話口で呆れてしまった。
「だから今回は鴇田に無理言って進行役代わってもらって、俺が順番操作した。」
「だから鷲見チーフ…」
鷲見が順番に驚いていた理由がわかった。
「あ…じゃあ今回は…私にたくさん点がはいってしまうんですか…?不正で…」
香魚子は申し訳なさそうに言った。
「正直なところ、この方法に決めた時はそういう結果になるかもしれないと思った。でも、川井さんが思わず“すごい”って口にするくらい香魚子のプレゼンもデザインも圧倒的だったよ。点が入っても自分の実力だって胸張っていいよ。」
「はい…」
「納得いってないね。」
周は香魚子の声色で察する。
「俺はコンペの結果だけで充分実力だって思っていいと思うけど、納得いかないとしても、コンペで選ばれたらその先の店頭での売れ行きが本当の審査だから。そこで判断したらいい。だから今落ち込んだり、申し訳なく思う必要はないよ。」
「はい。」