翌 日曜日
「香魚子、この前バースデーカードのコンペがどうとか言ってなかった?」
朝のコーヒーを飲みながら周が言った。
「はい、今度バースデーカードの社内コンペがあります。でもコンペは…もういいかなって…」
鷲見と目白の顔が頭を()ぎる。
「コンペの締め切りっていつ?」
「次の木曜です…けど…?」
周は少し考える素振りを見せた。
「ミモザのカード、コンペに出さない?」
「え…でもあれは…周さんの…」
「香魚子だってコンペのことが少しは頭にあったから、バースデーカードのデザインにしたんじゃないの?」
たしかに周の言う通りだった。
「でも…」
ピーコックラボのコンペに出してしまえば、ピーコックラボの業務内のデザインと見做(みな)されて、たとえ不採用になっても恐らくミモザカンパニーからの発売はできない。
「もちろん俺だってミモザカンパニー(自分の会社)から発売したいよ。でも悔しいけど、最初のうちはそんなに凝った…つまり…金をかけたバースデーカードとかは発売できないと思う。あれは金箔があって、ラメも入ってたほうが絶対生きるデザインでしょ。」
香魚子は黙って周の言葉を聞いている。
「だからあれは、ピーコックから発売させたい。あのカードは発売さえできれば絶対に売れるから、香魚子がデザインの仕事していく上での箔にもなるよ。」
「でも…その“発売”がピーコックのコンペではすごく難しい…ですよね…」
それは周自身が香魚子に言っていたことだ。
「前から考えてたことがあるから、それを試したい。俺は会社辞めるけど、ピーコックが目を覚ましてくれるならそれはそれで嬉しいし。」
「周さんがそう言うなら…。」
残念な気持ちがないわけではないが、周のために作ったデザインということもあり、香魚子は周の考えに従うことにした。