ある土曜の午後
香魚子と(あまね)は、柏木ともう一人、女性と4人でカフェにいた。
樅内(もみうち) めぐみです。よろしく〜。」
30代後半と思われる女性が香魚子に明るく言った。
「福士 香魚子です。よろしくお願いします。」
「樅内さんには経理系の業務を担当してもらうんだ。前は白雪舎(はくせつしゃ)で働いてたけど、出産を機に退職して、時短で働けるところを探してるってことで入ってもらう。で、福士さんは今は俺と同じピーコックで…」
周が二人にそれぞれを紹介した。
社員ではないものの、正式にデザイナーとして関わることになった香魚子を、あらためて自分の会社の創業メンバーである柏木と樅内に紹介する場を周が設けた。
「めぐさん、つむぎちゃん元気?」
柏木が聞いた。
「元気元気〜!最近おしゃべり始めて超かわいいよ。」
「めぐさんの子どもとか、超しゃべりそうだね。」
「もー柏木くんてそんなことばっかり言うよねー!でも絶対超しゃべると思う〜!あはは」
樅内は明るく笑いながら言った。
(めちゃくちゃ明るい…)
「つむぎちゃん、何歳なんですか?」
「今ねー1歳になったところ!超かわいいよ。写真見る?」

「私ちょっとトイレ行ってくる。」
樅内が席を立った。
「にしても良かったな〜明石。福士さんが来てくれて。」
「………。」
妙に明るい柏木の言葉に、周は“余計なことを言うな”という圧を感じさせる視線を向けた。
「福士さん、明石がさ」
「健太郎、黙れよ。」
「すっげー弱気になってたんだよ、福士さんの答えを待ってた2週間。」
「え?」
「あの2週間で飲みに行ったときも“断られたらどうしよう”って珍しく弱気になっててさーいいもん見れたって感じだよ。」
柏木がニヤニヤしながら言った。香魚子は周の方を見た。
「…弱気にもなるだろ。」
香魚子の視線に観念したように周が呟いた。
「…そう、だったんですか…」
(実際一回断っちゃったし…)
「まあ断られても諦めるつもりなかったけど。」