その日は明石の家で映画を観たり、(じゃ)れあったり、ランチのついでに散歩に出たりして過ごした。
「今日も泊まれば?」
明石の提案に、香魚子は頬を赤らめて無言で首をぶんぶん振った。
「…帰りたくなくなっちゃうので。」
「なくなっちゃえばよくない?」
(……う…だめだめだめ!)
香魚子はまた首を振った。
「頑なだね。じゃあ夕飯食べに行こ。家まで送るよ。」
夕飯は香魚子の住んでいる街で食べた。街に行くまでも夕飯を食べてからも、歩いている間はずっと手をつないでいた。
「明石さん、あの…」
(あまね)昨夜(ゆうべ)あんなに呼んだのにまだ慣れない?」
周はいたずらっぽく笑った。香魚子はまた頬を赤らめた。
「あまね…さん…あの…」
「ん?」
「会社ではどうしたら良いですか…?」
「それね。考えたけど…隠した方が良さそうだね。香魚子が揉めずにスムーズに辞められるようにしたいし、俺も今は色々詮索されると厄介だから。」
「はい。あ、私の家(うち)、ここです。」
二人は香魚子の住むマンションの前に立った。
「まぁ別に無理して隠す気もないから、土日とか会えるときは会おう。」
周の言葉に香魚子は(うなず)いた。
———フワッ
周が香魚子を包むように抱きしめた。
「香魚子に言っておかなきゃいけないことがある。」
「ナンデショウカ…」
「俺はこれから本格的に起業の準備しなきゃいけないし—起業してからも—しばらく忙しくてあんまり構えなくなると思う。しばらくは金銭的にも余裕が無くなること考えてるから、あんまり良い思いとかさせてやれないかも…」
周がそこまで言うと、香魚子は周の背中に回していた腕にギュッと力を込めた。
「そういうの、いらないです。」
「………」
「私、周さんの言葉にすごく助けられました。だから…これから大変なときとか苦しいときに、今度は私が助けたいです。」
香魚子が言うと、周も腕に力を込めてギュッと抱きしめた。