———ふふっ
(かわいかったな…)
香魚子はタクシーでのやり取りを思い出し、笑ってしまった。
「何笑ってんの?」
香魚子が背もたれにしていたベッドの上からあくび混じりの声がして、香魚子の心臓が大きく跳ねる。
「おはよう。早いね。」
「オハヨウコザイマス」
香魚子は目が泳いだぎこちない笑みで答えた。
「そんな緊張されたらこっちが照れるよ。普通にして。」
明石は困ったように笑った。
(無理無理無理…)
「……もしかして起こしちゃいましたか…?」
「いや、いつもこんなもん。」
そう言うと、明石は振り向いた香魚子の左頬に右手を当てて、そのまま唇を親指で(なぞ)った。
身体(からだ)、大丈夫?」
じっと見つめられたまま質問され、瞳を逸らせなくなった香魚子の心音は、明石に聞こえそうなほど大きくなった。
「大丈夫…です…」
明石は優しく微笑みかけた。
「コーヒーでも()れようか?」
「お願いシマス…」
香魚子は真っ赤になってタブレットを見た。
「それ何描いてんの?」
キッチンに行った明石が、コーヒーの用意をしながら聞いた。
「あ、これは…」
そこまで言って香魚子は言葉を止めた。
「ん?」
「あー…えっと、ナイショ!です!」
「何それ。気になる。」
———えへへ…
(完成するまで内緒にしよ…。)
コーヒーを持って戻ってきた明石が香魚子のタブレットを覗こうとした。
「わぁ!ダメ!」
「見たい。」
「完成してから見せます…。」
「でもそれミモザでしょ?」
「内緒です!」