「やっと触れられた。」
「え?」
「ずっと触れたいと思ってたし、下の名前で呼びたいなって思ってたし、夜中に一緒に映画観たいなーとか思ってた。」
明石が優しい声で言った。
「…名前で…呼ばれたいですが…心臓が持たないかもです…」
明石の胸の中で香魚子が言った。
「なんだそれ。」
明石は笑った。
「香魚子」
「わ」
「香魚子さん」
「わぁ」
「香魚」
「ひゃ…」
「香魚ちゃん」
「あの…ちょっともう本当(ほんと)にダメです…」
香魚子の反応を見て明石はまた笑った。
「さっき、女友達のノリって言われたときはどうしようかと思った。大事な話の三つ目で好きだって言おうと思ってたのに、友達か〜って。」
「あ、あれは…なんていうか…」
(そんなふうに思ってたなんて…)
「香魚子」
「…はい…」
「明日なんか予定ある?」
「いえ」
「じゃあさ、今日俺んち来ない?」
「え…っ」
(それって…)
「いや、別に今日そういうことしなくても大丈夫だよ。でもなんか今すげー離れがたい。香魚子の好きな映画とか観ない?」
「………えっと…あの…」
「ん?」
「………あか…あまね…さんとなら…そういうこと…になっても…大丈夫(だいじょぶ)…です…」
香魚子は明石の胸に顔を(うず)めて言った。
———ハァッ
「ヤバいな。そんなこと言われたら俺の心臓が持たない。」
明石の心音が、香魚子にも伝わってきた。