「えーっと…」
何度経験しても、プレゼンの一言目は緊張の色を隠すのが難しい。
「私が提案するのは、“ミルフルール”という花柄のシリーズです。メインターゲットは20代の女性で、かわいいものが好きだけど、少しきちんとした大人っぽい雰囲気のものにシフトしていきたい層に焦点を当てています…それで…」
香魚子は徐々にエンジンがかかったかのようにスラスラと商品の説明をしていく。
———ハイッ
デザインについて一通り説明を終えたところで、営業部の社員が手を挙げた。
「花柄ってめちゃくちゃ普通じゃないですか?売りにくいと思うんですけど?」
「それについては次の資料をご覧ください…4ページの…」
数ヶ月経っても社員の顔と名前が一致しない香魚子だが、商品のプレゼンは完璧だ。
デザインのコンセプトやポイントだけでなく、ターゲット層も明確で、ライバルになるであろう他社の製品についてや、WEBや雑誌で集めた独自の資料でマーケティングもされている。
———ハイッ
———ハイ!
香魚子の番だけ妙に質問が多い気がする。同じような内容を繰り返し答えた。
“花柄なんて普通だ”という意見ばかりを何度も聞かされたが、全ての質問にきちんと答えて香魚子はプレゼンを終えた。
次のデザイナーの番になり、席に戻ろうとした時、誰かに声をかけられた。