香魚子の答えは「NO」だった。
「………」
明石は少しの間黙った後に口を開いた。
「会社に入れないって…もちろんそういう答えもあるかなって想像しなかったわけじゃないけど…その…理由を聞かせてもらえないかな。」
明石にしては珍しく口調に動揺が見られる。
「えっと…」
「………」
「明石さんと…それから、柏木さんとも一緒に仕事ができたら楽しそうって思います。」
「なら…」
「でもダメなんです…」
「なんで?」
「………。」
香魚子は口籠(くちごも)ってしまう。
「俺は…福士さんがいる会社を想像してたから、君のデザインがある会社を想像してしまったから、簡単には諦められない。」
明石が香魚子の()をジッと覗き込む。
「わたし…」
明石が香魚子の紡ぐ言葉を待っている。
「………えっと…」
「うん…」
「明石さんのこと……たので…」
「え?」
香魚子の声が小さくて、明石にはよく聞こえなかった。
「明石さんのこと、好きになってしまったので…」
「え」
明石は驚きを隠せない表情(かお)をした。
「…なので、営業部長さんと鷲見チーフのことも何も言えないというか…同じ会社にいたら浮ついたデザインをしてしまいそうで…お役に立てない…です…」