今日は企画デザイン部の新商品ミーティングがある。部長や課長、チーフデザイナーらが事前に会議で決めた新商品デザインの担当を割り振るミーティングだ。
企画デザイン部に置かれた長机にデザイナー全員が集まって話を聞く。
香魚子の胸には明石の言葉が引っかかっていた。

『ピーコックは君の才能を活かすには濁りすぎた水だから。』

(あの時はその後の言葉にドキドキしちゃってスルーしたけど、“濁りすぎた”ってどういう意味だろう。私のテイストに合わないって意味?)
そんなことを考えながらミーティングの席に着いた面々を、なんとなく見渡した。
8人いるデザイナーの顔ぶれをあらためて見ていると、よく商品を発売しているデザイナーはほぼ固定された2〜3名だ。中でも鷲見(すみ)チーフはプレゼンで決まる商品に7割程度の確率で選ばれているように思える。
(チーフを任されてるくらいだし、実力…だよね…?)
「じゃあ、マスキングテープとシール、ラッピングバッグ、ペンケース、マスクケースは福士さんが担当ね。」
ふいに名前を呼ばれて、香魚子は現実に引き戻された。
「この間のノートが好評だったから、あの雰囲気で私の描いたモチーフをレイアウトしてくれたら良いから。期待してるわ。」
鷲見がにっこりと笑った。
「はい…。」
担当商品の点数は多いが、自分でモチーフを描かない分仕事としてはいくらか簡単だ。だが先日のノートのデザインの雰囲気、つまり鷲見のデザインと間違われるような雰囲気で作るという指定までされているので、考える楽しさのようなものはほとんど無いに等しい。
(鷲見チーフのモチーフをこの前みたいな感じで…か。)

『そこに飲まれすぎないようにして欲しい。』

(真逆の方向に進んでしまいそうです…)
香魚子は誰にもわからないような小さな溜息を()いた。