プライベートショーの設営日
香魚子をはじめ、企画デザイン部は全員が会場の飾り付けをしている。その他に営業部からも何人か応援として参加していた。
昨日、部長から聞いた営業部から応援に来てくれるメンバーの中に明石の名前はなかった———のだが、
「福士さん、これはこっちでいい?」
「え!?あ、はい、えっと、その箱の中身はこの台の上に乗せるので…」
「じゃあこの辺に置いとくね。」
明石が設営を手伝っている。
(なんで明石さんがいるの???服装もなんかいつもと違くない?)
普段はスーツ姿の明石だが、今日はパーカーにズボンのカジュアルな服装だ。明石の噂をしていた女子たちもざわついている。
「なんか俺にできることある?」
「は、はい…えっと、そこの箱に什器(じゅうき)が入ってるので組み立ててもらってもいいですか?」
「オッケー。」
「あ、組み立て方わかりますか?」
「うん。俺こういうの得意。」
明石が得意げに笑った。
(…服装も相まってなんか今日の明石さんかわいい…)
「あれ?これ部品足りないね。」
「あ!それはたしかこの箱に…はい、これ。」
香魚子は足りない部品を手渡した。
「ありがと。」
「あの…明石さんは設営のメンバーじゃなかったはずでは…」
「ああ、うん。日帰り出張の予定だったんだけど、昨日急にキャンセルになってさ。内勤にしようと思ったんだけど、こっちも人手が足りないって言うから。」
「そうだったんですか。内勤だから服装もなんかいつもと違うんですね。」
「そうそう。こんな格好(かっこ)だから設営にぴったりだろうってさ。」
明石は笑った。
「このノートって福士さんのデザイン?」
香魚子は一瞬ギクッとした。
明石が箱から取り出したのは、鷲見(すみ)に褒められたノートだった。
「……はい、一応…。」
香魚子は明石にはなんとなく見られたくなかった、と思った。
「よくわかりましたね、私のだって。他の方には鷲見チーフのデザインだと思われたりするんですけど…」
「うーん…たしかに鷲見さんぽいけど、色づかいが福士さんて感じかな。あとは細かいところが。」
「色づかい?」
ノートの色づかいは最も“ピーコックらしさ”を意識したはずだった。普段はあまり使わない甘いパステルカラーにしている。
「鷲見さんの色づかいって、いつも余計な色が入ってる気がするんだよね。整合性が無いっていうのかな…。」
明石が小声で言った。
「このノートは色がきれいだから、なんか福士さんのデザインてわかった。」
(……そんなふうに商品見てるんだ。この人すごい…。)
「でも全然福士さんらしくはないよね。なんでこういうデザインにしようと思ったの?」
「………。」
明石の質問は鋭い。