僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている

小三の、ある放課後のことだった。

今日もへらへらと波風立てずに一日を過ごした僕は、疲れ切っていた。

いつもの横断歩道に差しかかった。

赤と青が見分けられない僕は、車がきていないか、普段は念入りに周囲をチェックしている。

だけどその日はぼんやりしていて、たいして確かめもせずに渡ろうとしてしまった。

「危ない!」

ぐんっと腕を引かれて、歩道に戻される。

右折してきた車が、目の前の横断歩道をものすごい勢いで通り過ぎていく。

僕を助けてくれたのは、僕より頭ひとつ分背の高い女の子だった。

肩下までの黒髪に、黒目がちの瞳をしている。

「赤だよ! 見てなかったの?」

僕が色覚障害だなんて知るはずもなく、その子は起こっている。

びびりの僕は怯えて、何も答えられなくなってしまった。

どうしよう、逃げたい。

こういう、ひるまず他人を叱れるような、自分と真逆のタイプの子は苦手だ。

だけどよく見ると、その子の目はうるんでいた。

僕の腕をつかんだままの手も震えている。

「よかった、助かって……」

さっきまでとは打って変わって、声を震わせポロポロと泣く女の子。

すがすがしいほどはっきりとした喜怒哀楽の変化に、目が釘づけになった。

同時に、その子がかなりの勇気を振り絞って、僕を助けてくれたことを知る。

「もう危ないことしちゃだめだよ」

その子はぐすんと洟をすすり上げながら、背中のランドセルを揺らして、歩道の向こうに消えていった。