僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている

「あとは大丈夫だよ。病室まで一緒だったら、ややこしいことになると思うし」

病院の玄関口から中に入る前に、天宮くんが言った。

「でも、そういうわけにはいかないよ」

「ひとりで病院を出たことにしたいんだ。夏生さんを巻き込みたくない」

はっきりと断言され、私は何も言い返せなくなる。

納得はいかないけど、ねばれる空気ではない。

「……分かった」

しぶしぶうなずくと、天宮くんが優しい目をした。

「スピーチコンテスト、見に行くから。頑張って」

「うん。じゃあ、またあさって」

少し進んでから、もう一度振り返る。

天宮くんはまだ病院の玄関口にいて、私に気づくと右手を上げて笑ってくれた。

少し垂れた目尻、遠慮がちに弧を描く口元、春風に揺らぐ黒髪、桜の花びらのついた黒いジャケットの肩。

天宮くんという十七歳の男の子を形作るそれらが、三月の光の中で、霞のように揺らいでいた。