僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている

天宮くんの病気がかんばしくないであろう不安も、逃亡中という緊張感も、どこかに消えていた。

花火を見たときも思ったけど、人は心からきれいだと思うものを見たとき、すべてを忘れてしまうらしい。

桜並木の向こうには川が流れていて、対岸を電車が走っている。

お花見をしている人はそれほど多くなく、土手全体にゆったりとした和やかな空気が流れていた。

「休みの日なのに、そんなに人がいないね。こんなきれいなところ、もっと人がいてもよさそうなのに」

「そう。ここ、あまり知られてないんだ。穴場スポットっていうやつ」

空を見上げれば、人も景色も目に入らなくなって、桜だけの世界に放り込まれたみたいだった。

見惚れていると、カシャッというカメラのシャッター音がした。

天宮くんが、いつの間にかリュックからカメラを取り出して、私を撮っている。